解体屋
休みの日に調子に乗って見知らぬ山道までドライブに来てしまった。天気がいまいち悪いせいか、自分以外の人間とすれ違う事はついぞ一度も無かった。くねくねと曲がりくねった薄暗い峠道を抜けると、両側にハイアースやオロナミンCのホーロー看板がへばりつく寂れた廃村が現れた。喉が渇いたので道ばたに転がるビーボの自動販売機に500円玉を投げ込むが、既に息絶えていたらしく虚しく返却口が鳴る。
ふと周りを見ると、昭和の時代には既に閉店していたような自動車修理工場の前にいた。苔が生えてショールームのガラス中は見えない。なんとなく店の裏手に目をやると、「ダイハツのお店」というサインの裏に、朽ち果てたハイゼットを見つけた。「何か面白いものがあるかもしれない」と店の裏手に周り、茂みの中に目を凝らした瞬間、心臓が一気に高鳴りいまにも呼吸が止まりそうになる・・
230グロリア2ドアGX(9年間探し続けた純正リアスポイラーつきだ!!)
320ダットサンピックアップ
トヨペット救急車
観音クラウン
いすゞベレル
H150プレジデント(しかも3速マニュアル!)
そしてメーカーも名前も分からない360ccの自動車が無尽蔵に・・
次の瞬間、背後に人の気配を感じ振り向くと、麦わら帽子の老人が怪訝そうにこちらを睨んでいる。
「すいません、私東京から来たのですが、古い車に興味があって自分で修理してるんです。あのグロリアとダットサンをちょうど直していて、他の車も友人が探している物ばかりです。これは売り物なのですか?」
しばしの沈黙の後、どこ訛とも言えない聞き取りにくい言葉で老人がつぶやく
「もう20年も前に店閉めちまって畑一本だからな。これはそんときのゴミだ。欲しいなら売ってやるけど、幾ら出せるのかね?」
足下を見られないように、しかし機嫌を損ねないように自分なりの経験でこの辺、というツボを押さえた金額を小出しにしてみる。
「お前さんの他にも欲しいって人は何人か来たんだ。横浜の車屋とか、埼玉のクラシックカーの工場とか言ってたな。売ってやってもいいんだけど全部一度に持っていってくれるなら考えるんだがな」
こんなパターンはこの10年間に何度あったか分からない。少なくともたまにやってくる物好きの相手をする程度の田舎の老人なんかには負けられない。ポンコツ背取り師として最大限の話術で無欲な振りをしつつもじわじわと老人ににじり寄る。「まとめて全部」という言葉で脅されてもこちらにはクレーン車もあれば置く場所もあるので怯むことは無い。
「じゃあまあ気がすむまで見てってよ。値段はそれで良いからさ」
しばしのちっぽけな駆け引きのあと、老人はある覚悟を決めたかのように饒舌になった。
「えーと、まだ他にも色々隠してんだよな。おたく部品も興味ある?純正部品とかカーコンポとか、あとアルミホイールとかもあるんだよね。あんなの東京に持っていけば良い値段で売れるのは俺だって知ってんだけど面倒だからまとめてどうかね?」
苔蒸したショールームの自動ドアを手でこじ開けると、老人は部屋の電気をつけた・・
木製の古い棚にに並んだ「日産純正部品」の小箱!
当時の値札のついたままのロンサムカーボーイ!
床には一面に旧車のフロントフェンダーやバンパーが無造作に転がり、
部屋の一方にはエンケイやテクノのアルミホイールが広狭様々に
折り重なって置かれている・・・!
目の色が変わるのを押さえても、興奮は老人に伝わってしまったらしい。
急に訛も濁りも無くなった茶目っ気たっぷりの声で老人が訪ねる。
「・・・・・・・持ってく?インターネットで売れば?」
解体屋
次の言葉を発しようとした瞬間、急に目が覚める。
背中と額にはぐっしょりと寝汗をかき、またもやありもしない「幻のパーツの村」の夢を見てしまったことに、少なからずショックを受けながらベッドから起き上がる・・。もうこんな生活を何年続けているのだろう。これからもずっと続くのだろうか。あるいはある日どこかで、こんな幻の村を見つけて夢を現実にすることができれば、こんな寝起きの悪い真似は二度としないで済むのだろうか・・・
————————————————————————————-
ある日旧車仲間のガレージでこの話をしていたら、みんなが一様に口を揃えて、「同じ悪夢にうなされている」と言います。
周囲の自転車マニアに聞くと、彼も田舎の自転車屋に入ったらカンパニョーロだらけ(爆)といった夢を見るとのこと。
日本のどこかで壷探してる人も、掛け軸探してる人も、きっとおんなじ夢を見てるんだろうなぁ・・・。
隠れたバイク私小説の名著、「走れインディアン」の冒頭には、地球の裏側でも全く同じ夢を見ている人間がいることが描かれています・・・しかも場所が違うだけで、基本的には全く同じストーリーで。
そろそろ暖かくなってきました。夏になって雑草と蚊がひどくなる前に、またパーツ探しの旅に出るかなぁ・・・

次回、「ついに幻のパーツの山に・・」へつづく(笑)

No related posts.